信託にかかわる登場人物

委託者

信託契約を結び、自分の財産を受託者に託す人のこと。

信託契約の枠組みの中では、受益者と比べて一つ下の地位に置かれています。
なぜひとつ下の地位に置かれているかというと、受益者と委託者で意見が違った場合に信託の業務が停滞することを避けるためです。

【委託者の権利】

ひとつ下の地位に置かれているといっても、何の権利も持っていない、というわけではありません。

以下のような権利は委託者の権利として認められています。

  • 委託者として当然認められる権利
    1. 信託の当事者(受託者、信託管理人など)の辞任や解任への同意権
    2. 解任に関する裁判申立権
    3. 信託の変更、併合、分割への同意権   など
  • その契約で定められていれば、認められる権利

    受益者に認められている権利を、委託者にも認めるということも可能です。
    例えば、

    1. 受託者が違反行為をしたときに取り消す権利
    2. 信託に関わる連絡を受け取る権利
    3. 信託を精算するときの、最終の計算を認める権利  など

受託者

信託契約を結んで委託者から財産を預かり、管理したり運用したりする人。

個人も法人も受託者になることができますが、法人が業務として引き受けるためには資格が必要なことには注意が必要です。

信託契約においては、この受託者を誰にするかは、最も気をつけるべきポイントだと言えるでしょう。
受託者の候補者が、もし信託を受けた財産を好き勝手使ってしまう人であれば、信託契約の目的を果たすことができなくなります。
財産をきちんと管理・運用できる人物かどうか、十分注意して見極める必要があります。

【受託者の義務】

受託者になった人には、以下の通り様々な義務を課せられます。

① 信託事務遂行義務
まず、最も大事なのは委託者の意図に沿って事務を進めることです。
委託者の意図を汲み取りつつ、信託の目的が達成できるように事務を執り行う必要があります。
② 善管注意義務
受託者には法律用語で「善管注意義務」と呼ばれる義務が課せられます。
これは「善良な管理者としての注意義務」の短縮語です。
財産の管理にあたっては「その職業や地位にある人として通常要求される程度の注意」(新しい家族信託P202より)をしなければならないという義務です。自分の財産よりも、もっと注意して管理しなければなりません。
③ 忠実義務
受託者は、受益者の利益になるよう、信託事務をしなければならないという義務です。
④ 公平義務
受益者が何人もいる場合、特定の誰かを優遇してはいけないという義務です。
⑤ 分別管理義務
信託財産と受益者の財産が混ざってしまうことを避けるため、分別管理をしなければならないとされています。

以上のような義務を守りつつ、誠実に信託財産を運用することが、受託者には求められているのです。

ここまでお読みいただいた読者の方の中には、
じゃあ信託財産の所有者は誰になるのか
という疑問を抱かれた方も多いかと思います。

信託財産を管理する受託者にあるのか、それとも現実的な利益を受ける受益者にあるのか・・・、複雑そうに思えますね。

答えは、「形式的には受託者・実質的には受益者」です。

信託契約を結ぶと所有権は受託者に移ります(そうしないと売買などができないですね)
が、実質的には利益を受ける人は受益者のため、受益者が所有者ともいえるのです。

信託監督人

受託者がきちんと信託財産を管理・運用しているかどうかチェックする人のこと。

受益者が知的障害者や認知症など受託者を管理できない事情がある場合などに選びます。

受益者

信託によって利益を受ける権利を持った人のこと。契約の仕方によっては、委託者と同一人物になったり、受託者と同一人物になったりもします。 家族信託の場合は、「認知症になった親」「一人での生活が難しい障害者の子」「浪費家の子(多額の資産を相続した場合、計画的に運用できない心配のある人)」などを受益者に設定します。