Aさん(85才)は、先祖代々相続してきた土地を持っています。
Aさんには、妻Bさん(83才)との間に、長男Cさん(60才・嫁E)、二男Dさん(57才・嫁F)がいます。
長男CE夫婦には子供がいません。
二男DF夫婦には子G(25才)がいます。
Aさんとしては、自分が天寿を全うするときがきたら、先祖から引き継いできた土地は、長男Cに相続させたい、と思っています。さらに、長男が亡くなった後は、一族である二男Dか孫Gが相続するようにしたい、とも思っています。
一族以外の嫁Eさんの実家の方にわたってしまうことは避けたいと考えています。
一族の土地なので、一族の外に流出しないようにしてほしい。
遺言書を書いた場合、二代目以降の相続について指図できないため、一族の外に資産が流出してしまう恐れがあります。
本ケースでは、Aさんは遺言で先祖代々の土地を「長男Cに相続させる」とすることはできます。
しかし、その先長男Cさんが亡くなった場合について考えてみます。上記遺言に加えて、「さらにその後Cが死亡したら、二男D、孫Gに相続させる」とまではAさんの遺言で指定することはできないのです。
A⇒C⇒Dの順に土地が引き継がれるようにするためには、Aが遺言で「長男Cに相続させる」と指定するとともに、長男Cさんも遺言で先祖代々の土地について「弟D、甥Gに相続させる」と指定しなければなりません。
ところが、長男Cさんは必ずしもAさんの意向に沿って遺言をしてくれるか分かりません。妻Eさんに遺産をのこしたいと思うかもしれません。
むもしCさんが遺言を書かずに亡くなった場合、Cさんの相続は、法定相続分に従うことになります。
具体的には
という法定相続分になります。
これでは、一族に土地を承継させたい、というAさんの意向に沿う結果とはとてもいえません。
先祖代々の土地を信託財産として、信託契約を活用します。
財産管理を託す相手(受託者)は、まずは長男Cです。
信託財産の使用や収益の受取人(受益者)は、信託スタート時はAさん本人です。
Aさんが死亡した場合は、次の受益者(第二受益者)として長男Cとし、同時期に財産管理をする受託者の地位を二男Dに引き継ぎ、あるいは当事者の年齢を考えると次の世代の孫Gを第二受託者とし引き継がせることにします。
さらに、長男Cが死亡した場合の次の受益者(第三受益者)として二男Dを指定しておきます。
このような信託契約を、委託者Aさんと受託者Cで結びます。
委託者:A
受託者:第1 長男C ⇒(A死亡後)第2 孫G
受益者:第1 A → 第2 長男C → 第3 二男D
信託期間:A・C・Dの死亡まで
残余財産の帰属先(帰属権利者):孫G
信託スキームを使うことによって、A⇒C⇒D⇒Gという、Aさんの望む土地の承継を確実なものとし、一族の外へ資産が流出してしまうことを防ぐことができます。
家族信託を設計する際は、長期にわたる資産承継をしばる内容となる場合、家族会議などを通じ全員が納得のうえで信託を組むことをお勧めしておりますので、後日紛争が起きることを防ぐことができます。
信託契約は、契約である以上、もしAさんが認知症になり意思能力を失ってしまったら契約ができません。
問題が起きてからでは間に合わない、というケースもあります。早め早めに専門家に相談し、転ばぬ先の杖としての予防的法律手段を講じることが何よりも大切になります。
信託財産が、賃貸マンションや貸駐車場などの収益物件であり、その収益を自分の死亡後には妻の生活費にしてあげたい、あるいは長男Cの死亡後には嫁Eの生活費にしてあげたい、とういうような希望も叶えることができます。
受益者の指定を、A⇒B⇒C⇒E⇒Dとしておくことで、順に収益を受け取る権利を引き継がせます。こうすることで残された配偶者の生活を保障することができます。