Aさんは84歳。
Aさんには妻Bさんとの間に、長男Cさんがいます。
Bさんは去年認知症を発症しました。
それからしばらくは、AさんがBさんに身の回りのお世話をしていました。
Bさんの症状はだんだんひどくなり、AさんもBさんのお世話を一人でするのが大変になってきていました。
そんなAさんに追い打ちをかけるように、三か月前、Aさんが自宅マンションの階段で転倒して骨折し、入院することになってしまいました。
Aさんは退院できたものの、Bさんの面倒を見られるか自信がなくなり、Bさんに施設に入ってもらうことにしました。
その後は、Aさんが、Bさんの日常生活に必要なお金を払ったり、施設のお金をはらったりしていました。
しかし、Aさん自身にも、認知症の症状が出始めました。
Aさんが認知症になると、Bさんの保護がこれまでどおりきちんと行われるか、Aさんは心配しています。
Aさんと長男Cさんは近所に住んでいて、関係は良好です。
Aさんには多額の資産があります(現金預金・有価証券など流動資産も多い。また、投資物件であるアパートを所有しています)。
Aさんとしては、自分が認知症になったら、Cさんに、自分の財産を使って、Bさんを守ってほしいと思っています。
Cさんは金融商品の運用・処分について十分な知識経験があり、不動産経営についても十分な知識・経験があります。
Cさんが見たところ、アパートは今のところ入居者からの不満こそ出ていませんが、経年劣化によりところどころ修繕が必要であり、このままだと入居者が減少して賃料収入が減ってしまいます。
またAさんとBさんの間には、長男CのほかにDさんもいますが、Dさんとは疎遠です。
このまま何もせずAさんが認知症になった場合、成年後見が開始します。
成年後見が開始した場合、本件のケースを前提にすれば、 成年後見人としては弁護士などの専門家が選任される確率が高いです。
すなわち、Cさんが選任されない確率が高いです。
なぜなら、以下のようなケースでは親族以外のひとから成年後見人が選任される可能性が高いからです。
本件では、Aさんは預金・有価証券をもっていて流動資産の額や種類が多いです。
加えて、賃料収入もあります。
したがって、Cさんが後見人に選ばれる可能性が低いのです。
任意後見契約を結べば、Cさんを後見人にすることはできます。
しかし、後見人は、被後見人の金融商品や投資物件などは、その運用について家庭裁判所による監督が厳しくなる可能性があります。
不動産についても現状維持が原則ですから、修繕などができない可能性があります。
さらに、後見人は成年後見人であるAさんの利益を最優先しますから、BさんのためにAさんの財産を利用することはできない可能性があります。
そして、Aさんの死後も以下のような問題が生じえます。
すなわち、Bさんは認知症ですから、遺産分割協議に参加する能力がありません。
また、相続税の関係上は、Bさんが相続してから、子供に相続させるより、子供が相続してから、Bさんに相続させる方が有利です。
しかし、後見人がついてしまうと、Bさんの後見人としては、法定相続分を請求してしまい、結果、二次相続において、CさんとDさんが多額の相続税を負うことになってしまいます。
Aさんの財産を信託するわけですから、委託者はAさんということになります。
Aさんの全財産をBさんのために使ってほしいわけですから、信託財産はAさんの全財産という事になります。
Cさんに財産を委託するわけですから、受託者はCさんということになります。
まずはAさんの財産である以上、第一次受益者はAさんにしておきます。
Aさんの死後もBさんを守ってもらえるように、第二次受益者はBさんということにしておきます。
このように信託することで、CさんがAさんの財産を運用・処分できるようになります。
修繕の必要なマンションを修繕することができ、マンションの賃料収入が低下することを防ぐことができます。
また、賃料収入が低下してきたなどの事情があれば、Cさんは、Bさんの利益になるように、マンションを売却したり、建替えたりすることも可能になります。
Aさんが認知症になってからでは信託契約が締結できず、信託を利用することはできなくなります。
したがって、Aさんが認知症になる前に、専門家に相談する必要があります。
Bさんの死亡後、財産はどうなるのでしょうか。
仮に、Aさんとしては、Bさんの世話をしてくれたCさんだけに財産が行くようにしたいと考えていたらどうでしょうか。
信託契約では、受益権の経路を契約で指定することができます。
したがって、第一次受益者をAさん。
第二次受益者をBさん。
第三受益者をCさんとしておくことで、
A→B→Cの受益権の道筋を作ることができます。 (ただし、Dから遺留分減殺請求をされる可能性自体はあります。)