家族信託の登場人物は三人
すなわち、委託者、受託者、受益者の三人であることはすでにお話させていただきました。
この受託者がだれか、という点に家族信託の特徴が表れています。
家族信託では受託者は信頼できる身内の人になります。
では、信頼できる身内の人がいない場合、受益者を選任することができず、信託を利用することはできないのでしょうか。
そんなことはありません。
自己信託とは、委託者と受託者が同一人物である信託を言います。
(受益者に関して言えば、自己信託であっても、委託者受託者と同一人物であることもあれば、そうでないこともあります)
自己信託ができるという旨は信託法3条3号に直接明文されています。 すなわち、
「特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示」
とは、自己信託のことをいっています。
信託契約も契約である以上、当事者の合意が必要になります。
したがって、このことから、受託者と委託者が合意することが必要になるわけです。
自己信託では、受託者も委託者も同一人物なのですから、その一人の人が宣言することで信託が成立します。
このことから、自己信託は、信託宣言ということもあります。
以下にお話しさせていただきますとおり、 認知症にかかりそうな方が、もしもの時に備えて財産の経路をあらかじめ指定しておくこと、に使うことができます。
自己信託は信託宣言と言われているように、委託者ひとりで行うことができます。
このことから、ほかの家族には知られないまま、自己信託を組んでおく、ということもできます。
自己信託も信託ですから、自己信託を組んでおくことで、信託財産の受益権の経路を指定しておくことができます。
したがって、
「もし私が認知症になったら、投資物件はマンション経営のできる長男に、銀行預金は全部次男にあててほしい。長男はすぐにマンション経営を開始していいし、次男はすぐに預金を子供の学資にあててもいい」
というような内容にすることもできます。
ただし、委託者が認知症になってしまっている以上、誰かがこの信託の存在を認識して、長男次男に伝えて、信託の内容が実現されるようにする必要があります。
そのため、専門家の関与のもと、自己信託を組んでおくことが必要でしょう。
すでにお話させていただいたとおり、信託すると、信託財産は所有権ではなく、受益権となります。
このことからすれば、信託した財産は強制執行の対象にならなくなります
強制執行の対象とならないことから、自己信託が強制執行を免れるために悪用されることになるのではないか、その結果債権者が害されてしまうのではないかという問題があります。
すでにお話した通り、自己信託は「信託宣言」として委託者ひとりで比較的容易に行うことができてしまうので、このような問題が生じるわけです。
信託法23条2項では、このような問題を受け、特別な規定を定めています。
すなわち、「第3条3号に掲げる方法によって信託がされた場合」つまり自己信託の場合について「委託者がその債権者を害することを知って当該信託をしたとき」には「強制執行」などを認めるという規定が置かれています。