実家信託

1. はじめに

離れて暮らす親の実家について考えた事はありますか。

「まだまだ親も元気だし、何の問題もないよ」

「親が亡くなった後、子のうち誰かが相続するだろうが、仲良いから大丈夫」

など心配はないと思われている方もいるでしょう。

空き家のリスク

しかし、両親の実家について、何も対策しておかないと、後々困るケースが出てきています。

たとえば、親が認知症になり実家での生活ができなくなり、子の家で同居することになったり、施設に入所することになり、実家が空き家となってしまうことがあります。

空き家を適切に管理できればよいのですが、管理されず放置すると建物の老朽化や敷地へのゴミ不法投棄、犯罪者が出入りしたり放火されるなどのリスクも生じ、所有者責任をとわれる恐れがあります。

空き家の維持・管理が悪く近隣に迷惑をかけ、市町村長から特定空家等として修繕勧告がされると固定資産税が最高6倍になることもあります。

また、施設入所の費用を捻出するため、実家を売却する必要がでてくることもあります。しかし、実家を売却したくても、所有者である親が認知症になってしまっていると、簡単には売却できません。

2. 成年後見制度の利用

認知症の親の実家の管理・処分のため、成年後見制度を利用する方法があります。家庭裁判所で親の成年後見人を選任し、その成年後見人が親本人の代わりに実家の管理や売却などをすることになります。

しかし、居住用不動産である実家を売却するためには、別途、家庭裁判所の許可が必要で、その許可には相当の理由がいるので、事案によっては許可が得られないケースもあります。

また、成年後見制度を一旦利用すると、ご本人が亡くなるまで途中でやめることができず、成年後見人には定期的な財産管理報告義務があり、成年後見人に家族ではなく第三者が選任された場合は、後見人報酬の負担も一生涯続くことになります。

3. 対策:「実家信託」

「実家信託」とは

親が認知症になってしまう場合に備えて、元気なうちに「実家信託」をします。

信託により、「名義」と「財産権」をわけることができます。財産管理・運用・処分の権限をもつ「名義」のみを子に変更し、財産を利用する権利や財産から得られる収益を貰う権利「財産権」は親のままにしておきます。

これにより、もし今後、親が認知症になってしまっても、名義は子になっているので、子が実家の売却手続きをすることが出来ます。売却後は、売却代金を子が親のために管理をしていくことになり、必要に応じて親の施設費用などにつかえます。

「財産権」(受益権)の承継について

また、信託では、財産管理をする者(受託者)である「名義」を変えるだけでなく、「財産権」(受益権)の承継についても決めておくことができます。

たとえば、父名義の実家について、「名義」は子にして、「財産権」は父のまま、もし父が亡くなった後の「財産権」は母にする、との信託契約をしておくことで、父の存命中は、子が父のために実家を管理し、父が亡くなった後は、母のために実家の管理を継続していく、ということができます。

信託契約で「財産権」の承継先を決めておくことで、実家に関しては、相続手続きをする必要もなくなります。

「家族信託」の税金のメリット

さらに、信託では、「名義」のみ子に変わり、「財産権」は親のまま、という契約であれば、「財産権」の移動がないので、贈与税、不動産取得税、譲渡所得税の課税はされません。

また、実家を売却した場合には、親自身に対する課税となるので、居住用不動産の売却として譲渡所得に関する特別控除の特例を利用できます。

4. まとめ

このように、事前の対策として信託を利用することで、成年後見制度や相続手続きを利用しない財産管理・資産承継が可能となり、その内容も柔軟に決めておくことができます。

実家信託は、実家の所有者である親と、財産管理をまかせる子との契約です。契約は、親に判断能力がある元気なうちにしかできません。

「うちは、まだまだ大丈夫」と思っているうちに、いつどうなるか分からないので、お早めに親子で話し合っておいていただくことが大事です。