親が認知症になったら財産を処分できるよう備えるケース

事例

Bさんからの相談です。
Bさんの父Aさんは、実家でひとり暮らしをしています。

Bさんは、父Aさんに最近認知症の兆候が見られるようになったことから、Aさんを心配しています。
たまたま、実家へ遊びに行った際、水道の水を出しっぱなしになっていてもAさんは平気な顔をしていることがありました。

Aさん自身は、はじめは、まったく病識を持っていませんでしたが、Aさんの子であるBさんが「最近物忘れがはげしいよ、認知症かもしれないよ」と言ってみたところ、「そうかもしれない」と言いました。
内科の先生にかかってみたところ、まだ認知症ではないとのことでした。

しかし、今回の一件で、BさんもAさん自身も、Aさんが認知症になってしまったらどうしよう、と心配になってしまいました。

Aさんには自宅の不動産と多額の財産があります。
その内容は、有価証券である金融商品で、上場株式、債券、投資信託などを持っていますし、ゴルフ会員権もあります。総額は1億円を超えています。
実家には、母Cさんが亡くなってから父がひとりで生活しており、Bさんは隣県に持ち家があり、この先も、実家に戻る予定はありません。

AさんとBさんは、二人で話し合った結果、Bさんの家の近くにある、介護付き有料老人ホームDに入ることに決めました。公的施設には入らないことにしました。Bさんが簡単に通えるし、サービスが手厚くて魅力的だったのです。
Dの利用料は高額でしたが、自宅を売却したり金融商品の一部を処分すれば、捻出できそうです。

ところが、もしこのままBさんが認知症になり、成年後見人がつけば、成年後見人により財産が管理され、財産を処分できない可能性があります。

問題点

Aさんが実際に認知症になり、成年後見制度を利用した場合、成年後見人に対して財産管理の内容に応じて報酬を支払う必要が生じてしまいます。

また、任意後見契約の場合も問題があります。
すなわち、任意後見人の制度と信託の違いは、前者では家庭裁判所が後見監督人を選任して後見人の行為を監督する点で異なっているところ、財産処分によっては許可が下りない可能性があります。
本件ではとくに、金融商品など多くの財産があるから、このような監督が厳しくなる可能性が高いです。

そのほかに、Bさんに財産を処分してもらうために生前贈与する方法もあります。
しかし、贈与税の問題が生じてしまいます。

このような信託をご提案いたします

Aさんの財産を信託するわけですから、Aさんが委託者になります。
信託財産は、Aさんの自宅不動産と金融資産です。
長女のBさんが財産管理や売却をするわけですから、受託者はBさんです。
財産はAさんのために売却するので、受益者はAさんにしておきます。

委託者:A
受託者:B
受益者:A
信託期間:Aの死亡まで
残余財産の帰属先(帰属権利者):B

このように信託契約により、Aさんが元気なうちに長女に財産管理の権限を与えておくことで、この先、Aさんが認知症になったとしても、成年後見制度を利用しなくても、タイミングのいいときに財産処分をBがすることができます。

注意点

Aさんが認知症になってからでは信託契約を結ぶことができません
早め早めに専門家に相談しておきましょう。