成年後見とどう違うの?

成年後見人とのちがい

家族信託も成年後見も、受託者又は後見人すなわち本人以外の方が本人のために財産を管理するという点においては共通します。
しかし、以下のような点で異なっています。

権限(受託者及び後見人の権限)

(1) 信託

託者の権限の内容は、契約当事者で自由に決めることができます。
なぜかというと、信託は契約であり、契約の内容は当事者の合意で決めることになっているからです。

したがって、
「金融資産については受託者に任せたいが、不動産についてはまだ自分で管理したい」
という場合には、契約の内容で、信託財産を金融資産のみにできます。

一般的には、委託者のすべての財産を信託財産とする契約が多いと言えます。

(2) 法定後見

法定後見人の権限の内容は、以下のとおり

  1. まず、財産を「管理」すること。(民法859条1項)
  2. 被後見人を「監護」すること(民法857条、820条)
  3. 代理権(民法859条1項「その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」)
    取消権(5条1項「法定代理人の同意を得なければならない」)
    同意権(5条2項「取り消すことができる」)

法定後見は法律上の制度なので、権限も法律に定められているというわけです。
契約ではありませんから、信託のように当事者の合意で内容を定めるという事はしません。

(3) 任意後見

任意後見人の権限の内容は、以下のとおり。

  1. 財産管理(任意後見契約に関する法律第2条第1号「生活、療養看護及び財産の管理に関する事務」)
  2. 身上監護(任意後見契約に関する法律第2条第1号「生活、療養看護及び財産の管理に関する事務」)
  3. 代理権(任意後見契約に関する法律第2条第1号「その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約」)

※注意
任意後見については、取消権と同意権がありません。
なぜなら、民法5条1項、2項に相当する規定がないからです。

委託者又は被後見人に残る権限は?

(1) 信託

契約内容で柔軟に決めることができます。
例えば、
「委託者が認知症になるまでは、委託者が不動産を使用収益できるようにしたい」
という内容にすることも可能です。

他方で、受託者に信託財産の使用収益権を移転するものとした場合、委託者には権利が残らないことになります。

(2) 法定後見

被後見人は、日用品の購入その他日常生活に関する行為しかできなくなります。
(民法9条但書「日用品の購入その他日常生活に関する行為」)

被後見人が、後見人の許可なく契約したり、家を売った場合、その契約は取り消されるものになります。

(3) 任意後見

被後見人は後見人の許可なく契約したり、家を売ることができます。

誰が受託者又は後見人になるのか

(1) 信託

信託は契約なので、このことからすれば、だれでも好きな人を受託者にすることができます。
なぜなら、契約では、契約を合意によって締結させた人が当事者になるからです。
そのため、当然、受託者の人が合意していることは必要になります。
加えて、契約をするためには意思能力が必要です。
したがって、認知症を発症した人は契約することができませんから、信託できません。

さらに、信託法7条で欠格事由が定められています。 これによると、

「信託は、未成年又は成年被後見人もしくは被保佐人を受託者としてすることができない」

とされています

(2) 法定後見

家庭裁判所が後見人を選任します。
(民法843条1項「家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。」)

したがって、だれが後見人になるのかを自由に決めることはできません。
親族が選ばれるとも限りません。
弁護士のような専門家が選ばれるケースもあります。

(3) 任意後見

契約ですので、このことからすれば、受託者になってもらいたいと考える人と契約して、受託者にすることができます。
資格制限もありませんので、親族になってもらうことができます。
もちろん、弁護士のような専門家になってもらうこともできます。

開始時期

(1) 信託

開始時期を契約内容で自由に柔軟に決めることができます。
終了時期についても同様です。
ある時点で終わり、という内容にすることもできますし、永続的に続く契約にすることもできます。

(2) 法定後見

後見開始の審判から開始します。
審判のあと、死亡まで継続します。

例えば、
認知症発症→後見申立→後見開始の審判→開始
という流れで始まります。

(3) 任意後見

任意後見監督人が選任された時から始まります。

(任意後見契約に関する法律2条1号 「第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定め」)