事業信託とは

事業信託とは、事業を信託することをいいます。
通常の信託では、不動産や債権といった積極財産(プラス財産だけを信託するのに対し、事業信託では少し異なります。
事業信託の対象には、消極財産(マイナス財産)である債務も含まれます
すなわち、事業そのものを信託するわけですから、信託の対象には、取引先に対する買掛金の支払いや、従業員に対する給料の支払いの債務なども含まれます。
受益者は、これらの債務を支払わなければなりません。

事業信託は、不採算部門を信託する方法として使うことができます。
譲渡してしまうのではなくて、信託するわけです。事業の収益を得る権利は、委託する会社に残されます。
すなわち、委託する会社としては、不採算部門を、活用してくれそうな別の会社に委託してしまうことで、収益を得ることができます
受託する会社にノウハウがある場合、委託する会社のもとでは不採算部門だった事業でも、活用して、収益を出すことができる場合があります。

こう書くと、受託する会社にはなんの得もないように思えます。
しかし、そうではありません。
まず、受託する会社としても、報酬や手数料を得ることができます
次に、受託する会社は、信託した事業を利用しているわけですから、初期投資をしなくて済みます
さらに、受託する会社としても、ある事業部門を手に入れたいと思ったとして、いきなり事業譲渡を受けようと思うと、多額の買い受け金が必要になります。
まずは信託をうけて、操業してみることによって、その事業部門で収益を出せるかどうかを試してみることができるのです。

信託法の改正

かつては、信託できる財産は、不動産や、債権といった積極財産(プラス財産)のみでした。
したがって、債務のような消極財産(マイナス財産)は含まれませんでした。

ところが、平成18年の信託法改正から、消極財産(マイナス財産)についても、信託できるようになりました。
改正後は、事業信託を行うことができるようになったのです。

事業譲渡との関係

事業信託は事業譲渡に似ています。
事業譲渡は、事業の一部門を譲渡するもので、本質は売買契約です。(特定の事業目的のために組織化された有機的一体財産の全部または一部を譲渡し、これによって事業の全部または一部を譲渡することを言います)

事業譲渡を行うと、まず受け入れ側の会社としては、譲渡部門を買い受けるために多額の代金を用意しなければなりません。

また、事業譲渡と違い、事業信託には契約期間があります。
すなわち、事業譲渡は、すでにお話した通り、本質は売買ですから、一回的なものになります。
他方で、信託の方は、継続的なものになります。
契約期間が満了した場合、事業を委託会社に戻すか、受託会社に売却するか、第三者に売却するかを柔軟に定めることができます(契約内容でさだめます)。
信託契約期間中の操業により収益が上がっていた場合、契約締結時には不採算部門だったとしても、契約期間終了時には高値で売却できることもありえます。

注意点

すでに一番最初に述べたとおり、この事業譲渡は、ほかの信託と異なり、債務をも信託財産に含めるところに特色があります。
したがって、仕入先に対する債務や、従業員に対する債務などを債務引き受けしなければならず、ほかの信託と比べて相対的に複雑になります。

そうだとしても、これまで述べてきたとおり、メリットも多い手法ですので、今後は活用されていくのではないでしょうか。