その名の通り、
受益権者を指定する権利を有するものをいいます。
指定権者としていますが、既に受益権をもっている受益者から別の人に受益権者を変更する変更権を有すると定めることもできます。
信託法89条1項によれば
「受益者を指定し、又はこれを変更する権利(以下この条において「受益者指定権等」という。)を有する者の定めのある信託においては、受益者指定権等は、受託者に対する意思表示によって行使する。」
と定められています。
信託では、当事者の合意によって、受益者を自由に決めることができます。
例えば、最初は祖父を委託者兼受益者としておき、祖父の死後は祖父の子である父が受益者になるようにすることができます
この父に、長男と長女がいたとしましょう。
例えば、祖父としては、祖父の生前から祖父と父と一緒に暮らしていた長男に、第三次受益者として財産を受け取ってほしいと思っていたとしましょう。
この場合は、祖父が、信託契約のなかで、第三次受益者として長男を指定しておけば済む話です。
したがって、受益権指定権者を定めておく必要はありません。
他方で、このような場合はどうでしょうか。
すなわち、祖父としては、長男と長女のいずれに第三次受益者になってもらうか決めていない場合で、かつ、祖父の子である父のためにより尽くしてくれたほうに第三次受益者になってもらいたいと考えている場合を想定してみます。
この場合、祖父の希望を叶えるためのスキームとしては、
というスキームが最適です。
このような場合、父を受益権者指定権者にしておくことで、父自身が、自分により尽くしてくれたほうを、受益者として指定することができるのです。
また、既に述べたとおり、変更権の定めを置くこともできますから、たとえば一度長男を指定したが、やはり長女の方が適切だと思ったときに、長女に変更することもできます。
このように、受益権者指定権者をつかうことで、ほかの方法では実現できなかったスキームを構築することができます。
すなわち、まず、受益権者指定権者を定めない信託契約では、祖父自身があらかじめ「父の次は長男」と決めておくことはできますが、祖父の死後(認知症になった後)の事情を考慮して受益権者を指定することはできません。
次に、相続を利用した場合、遺言によって、父に相続させることを指定できますが、そもそも、二代目以降については祖父は一切指定することができず、父による遺言か法定相続分による相続になります。